e−たわごと No.029

投稿日 2003/04/27  北国の春
寄稿者 八柳修之

あのいまわしい米英軍のイラク攻撃がなければ、今頃はオランダで女房が楽しみにしていたチューリップを観ていた筈であった。戦争になれば海外旅行するなどの気分にもなれず、SARSの流行も伝えられたので旅行はキャンセルした。なんとなく満たされない気持ちだけが残った。
 そんなとき、「横浜〜北東北4日間全席指定乗り放題、ペアで44,000円」というJRの広告を目にした。行き先は迷わず、盛岡、角館、秋田と決めた。
 女房が珍しく躊躇しなかったのは、「壬生義士伝」の影響、そして、私の育った土地を見ておきたかったのかもしれない。

 23日、956分東京発の「はやて9号」は1222分には盛岡に着いた。生憎小雨で、岩手山、姫神山は見られなかった。田口さんが予約してくれたホテルのチェックインタイムには早かったが、荷物を預けると封筒を渡された。山中さんからのものであった。中に盛岡の地図と東安庭の農業試験場跡地に関する新聞切り抜きなどが入っていた。
 タクシーで「直利庵」へ直行したが定休日であった。運転手が「どこへ行きますかね」と尋ねた。次に出たお店の名は「東家」であった。幸いここはお休みではなかったし、50年前よりも繁盛しているようであった。

 お蕎麦を食べた後、小雨の中「岩手公園(盛岡城址)」へ行った。

ここは春を待ちこがれたように柳が芽を吹き、白いコブシ、黄色いレンギョウ、梅と桜、それにまだ水仙までが一斉に咲いている様、それは女房にとって、不思議な風景であり驚きであった。まず水仙が咲き、梅が終わってから、桜が咲くと言うパターンが頭にあったからである。これぞ、「壬生義士伝」の一節、「桜の花が咲く頃の盛岡は、それはそれは美しい町になりやんす」。北国の春は一度にやって来るのだ。私も何十年か振りで盛岡の春、北国の春を実感した。

桜はさほど数があるわけではないが、雨でしっとりと濡れ苔むした石垣と鮮やかさなコントラストを見せ、小雨にけむる柳よ桜も風情があるものだ。
 お城を下って「石割桜」へ。ここは写真を撮る観光客で溢れていた。岩をば割る桜、女房はこれが「南部魂なのですね」と言ったが、同時に日頃から南部魂の微塵もない私の気質は「なんでだろう」と思ったようだ。

 中津川河畔の遊歩道を愛宕町の、今は公民館となっている南部さんのお屋敷まで行った。盛岡八景の絵を見ようと思ったが展示されておらなかったが、場所がどこか判らなかった八景にある「高嶋の夜雨」は、北上川と雫石川との合流点附近であったこと、「舟橋夕照」の絵図を見られたことは収穫であった。
 再び川沿いの遊歩道を途中、上の橋の擬宝珠を見て中の橋まで歩いた。雨で川は増水してはいたが水は綺麗であった。ござ九の土塀と土蔵は川岸の石垣とよく調和していた。そして、なによりも川の両岸が石垣となっていて、誰かが小径の所々に植えた水仙を見るにつけ、この町の人の豊かさを感じた。
 昔、煉瓦造りの商工会議所があった所ではないかと思う橋の袂のオシャレな喫茶店で一休みした。喫茶店から見える電光ニュースは「只今の気温8度」であった。肌寒い春であったが、お茶をしていた御婦人達を見て、女房が「もう春の装いをしていますね」と言って、また驚いたようだった。

 午後6時から、ホテルで山中さん、袰岩さん、田口さん、小川さん、佐藤さんが歓迎会を開いてくれた。山中さんは開口一番、「奥さんを連れて東安庭の官舎のあった所から学校までの道を歩いたと思っていた」と言った。それで新聞切り抜きが入っていた訳が判った。「10月に行ったからね」と簡単に答えたが、後で考えてみると、一応にしろ女房に希望を聞いてみるべきであったかもしれない。山中さんのように気遣いがないのを恥じるばかりであった。

 病気で入院されたという小川さんはお元気で快復された様子であった。田口さんのお母様の入院のことで、親のことや健康のことが話題となった。こうやって会えるのも健康であるからだ。袰岩さんの現代学生気質論は、若い人との接触があってのこと、それが彼のバイタリティの源であることを知り、自分の人的交流の狭さを考えさせられた。
 佐藤(池野)さんの解説付きの山菜料理は、また「北国の春の味」を思い出させるものだった。春の山菜の代表格のしどけのおひたし、行者にんにく、巻いている芽の部分を食べるこごみたらの芽の天麩羅を食した。そのほか、おひたしや酢味噌和えにすると美味しいみずぼうなあいこなど、博識の佐藤さんの話が続いた。「春宵一刻値千金」、楽しい会話が9時過ぎまで続き、名残惜しくお開きとなった。

 翌日は朝から晴れ上がり、角館に向かう車窓からは岩手山の姿が見られた。

だが、角度が悪かったのか、それとも昨日の雨が雪になったのか、山中さんがくれた新聞切り抜きにあった春を告げる山頂付近に見られる「鷲と雉」の雪形は見られなかった。
(4・27 八柳 修之)

岩手公園の桜

愛宕町の天然記念物ベニシダレ

(注:袰岩さんのようにウメグ ウズセネクテ オモサゲナガンス)

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