e−たわごと No.083

投稿日 2004/02/14  学び続けることこそ大切
寄稿者 小川智子

私が人にオーラを感じるのは、その人が一生懸命に何かに打ち込んでいる姿に接した時の様に思う。スポーツ選手が全力を出し切って自分と戦っている姿や、試合に負けても、終わった時のあの爽やかな笑顔を見た時である。研究者も同じで、一生懸命に研究に打ち込んでいる姿や、その考えの深さに接した時である。これは現役で活躍されている方達の事であるが、重病に伏している方でも、精一杯生きて来られたお顔には、苦悩の中でさえ、穏やかさや何とも言えない充足感を見る事ができる。これは、もう何十年も前の事であるが、故・嘉村裕一先生が、癌の大手術をされて回復された時に、先生をかこんで親しくしていた仲間が集まった時である。私は、その時の先生のお顔を今でも忘れる事ができない。本当に仏様の様な優しいお顔であった。始めて、先生のお苦しみが並み大抵なことではなかったことが感じられた。この先生のご回復ほど、私に勇気を与え、安堵と同時に幸福感を感じさせて戴いた事はなかったと思う。

 先生のお病気に比べれば、昨年の2月に起こった虚血性腸炎から始まった私の病気など病気とは言えないだろう。早くもとの自分に戻って仕事がしたいと思ったが、歳のせいもあるのだろうが、あせれば焦る程、自分の身体をコントロールすることができなくなる日々が続いた。ようやく回復したと思ったのは、私の誕生日である7月22日で、この日は日本学術会議の委員の任命式があった。小泉首相の前で、新会員の名前が次々に呼ばれ、起立し礼をした。首相はそれぞれに、するどい目で挨拶を返えして下さった。学術会議は日本の代表的な科学者が日本の科学のあり方や発展について考える所であるので、科学をとりまく多くのことを学ぶ機会を得た事に感謝するとともに、日本の科学の発展に少しでも貢献できるとゆう期待で、胸がドキドキするのを覚えた。総会に始まり4日間の会議が続いた。
 政府は総合科学技術会議(議長:首相)を発足し、日本学術会議(会長:科学者)と合体することを進めていた。それを受けて今期は最後の日本学術会議である。前期の学術会議が検討してきた7部門を文系、理工系、生命科学系の3部門に分けるための問題点、子供や若者の教育のあり方、科学者の倫理観など、様々な日本の学問のあり方と発展の基礎にまつわる課題をまとめる任務を負っていた。いわば日本学術会議の改革であり、もっとも重要な時であると理解できた。送られて来る種々の書類、勉強会、そして議論とあっという間に半年が過ぎようとしている。

 以前の「はなみずき」に、私は、「創造性のないところには優れたものは育たないし、豊かな文化の向上はあり得ないから、まさに現在こそ、それぞれが真剣に独自のあり方について考え、社会の動向について理解して行かなければならないと思う。私は生命科学の基礎的な研究に携わっているが、日本の生命科学の教育の現状だけをみても、学問の進歩と多様化の速度があまりにも早いために、それらを教育に取り入れる体制作りが追い付いていないことがわかる」と書いた。この改革の時期に、考えなければならないのは、教育のあり方である。それは、基礎科学のしっかりした理解である。例えば、生物の理解のためには、生体を構成する物体の性質(物性)の理解は必須であるし、コンピュターを用いた情報の整理も重要である。さらに応用面として、我々の生活に直接的に関係する医療では、再生医療やテーラーメイド医療に伴う個人のゲノム情報の利用など、科学者の倫理観、守秘義務などを考える力、創薬や組換え植物などの開発では、社会に安全で安心な物づくりや知的財産権などを正しく判断できる教育が必要となる。

 先日、NHKのテレビの人間ドキュメントという番組で、京都の西陣織りの織元をしている102才の山口伊太郎さんが、1200年前に描かれた源氏物語絵巻き図を西陣織りで復元されている様子を見た。山口さんは、さらに1200年この源氏物語巻き絵図を織物で残そうと70才で決心し、すでに30年の年月を費やしておられる。そこには、糸の物性を経験を通して学び、創意工夫で新しい織の技術を生み出し、後世でも恥じない素晴らしい芸術作品を生み出す努力があった。山口さんは小学校の年令の時にでっち奉公に出て、18才で織物店の主人になっておられる。山口さんの生きて来られた時代と現代は大きく異なるが、この番組を通して、私は、人は何かを極めようとすれば、自分自身で勉強ができるのだと思った。物ごとの本質を学ぶ事の重要性をまざまざと感じさせる番組であった。私は若者の教育の重要性を論じて来たが、若者に自分の行いたい事を意識させる教育が必要なんだと思った。
 山口さんの失敗を繰り返し、自分のイメージに近付けるその前向きで、ひた向きな努力を目の前にして、私は、このような生き方が、自分自身の明日を作るのではないだろうかと、身の引き締まる思いがした。
 
(共立薬科大学同窓会誌「はなみずき」への寄稿文より)

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