ノンジャンル No.067

投稿日 2006/05/24  [PART1] 気概
寄稿者 吉田一彦

 私は、本省の課長補佐時代には,人事院の埼玉県入間の研修所で研修を受けた。
 定かには記憶してないが、参加者は、原則各省一人、総勢20名ぐらいで、期間は、1ヶ月の泊り込みの研修だったと思う。
 カリキュラムは、多彩で、仕事と関係の深い、憲法、行政法などの法律関係、経済政策、財政問題などのほか、仕事と直接関係のない美術、文学、音楽、歌舞伎、演劇などきわめて幅広である。
 職務密着型の各省の研修所で行われている研修とは、一味違う人事院研修の特徴である。
 私は、係長のときにも当時は恵比寿にあったこの研修所で研修を受けているが、研修の内容、密度は大変なもので相当にきつい。
 
 ある日『日本の防衛問題』の研修があって、当時防衛庁の天皇といわれて恐れられていた同庁の海原 治官房長が講師でみえた。
 講義の途中で、
「日本の防衛予算は、どのくらいか?」
 防衛庁から参加している職員を名指しして聞いた。
 しかし、彼は、答えることが出来なかった。
 海原官房長は、色をなして激怒した。
「将来の日本を背負っていこうという君達がこんなことが分からないで、日本の防衛が出来るのか」
 答えられなかった防衛庁の職員は、青ざめて下を向いた。
 それから海原官房長は、順々に研修生を名指ししていったが、誰も答えられず、順番が私のそばまで来たので、私は、前の人に隠れて当てられないようにした。

 サミエルソンの『経済原論』の輪読、集団討論も行われた。
 特に集団討論は、よく行われた。テーマはいろいろ。
ある日のテーマ「日本の大学は、国立と私立のどちらを主流にすべきか?」
 冒頭、チアーマンの何省かの職員が発言した。
「ここには、国立大学の出身者ばかりしかおりませんから、遠慮なく私大を批判していいですよ」
 当日の参加者は、ほとんどが東大。司会者がそういうのも分かるが、
アンチ学閥派の私は、唖然とした。
(公務員試験の合格者は、東大でも受験者の3人に1人とか。その人達が入省しても使えるのはほんの一握りです。三流官庁といわれている労働省の中でも私の部下はほとんど東大。東大卒がうじょうじょしてます)

 研修は、入間の研修所の中ばかりではない。
 京都の修学院離宮、桂離宮(大阪の大学の先生の説明付き)や倉敷の大原美術館の見学、水島コンビナートの視察などの研修旅行もあった。

 入間では、
身体を鍛え、気概を養うために朝起きると6時から毎日マラソン(2キロ位の長距離走)があった。全員の強制参加である。
 これが大変苦手な私(盛岡一高では、体操の時間によく高松の池まで走らされた。久保学園(現在の盛岡女子高校か)のガール達が窓から見ているので、私はいいところを見せようと頑張ったが、いつも一番びり)は、いつも皆とはなれて数人で近道を迂回し、ブッシュに隠れて、先頭が来るのをゴール近くで待って、一団に合流して誤魔化した。
 いつも決まって先頭は、警察庁のMさん。
(後に青森県の本部長から昭和天皇の崩御時のテレビで天皇の病状を発表した宮内庁総務課長。当時私と官舎が目黒の東山で一緒で、彼と国鉄清算事業団出向中の私を警備するために、
所轄の目黒署は官舎の脇にプレハブの小屋を建てて警察官を常駐させた。
 彼と私は、毎日出勤時間や通勤経路を変えさせられた。彼の最終ポストは警視総監)

 二番が防衛庁の小池氏。
(防衛予算が答えられなかったのはもう一人の防衛庁職員。小池氏は、
イラクへの自衛隊派遣を憲法違反と主張する同庁元局長という異色官僚。現在、娘を嫁にやるなら持たせてやりたい桐ダンスの全国シアー70%を誇る伝統工芸品で有名な新潟県の加茂市長)

 長距離走が終わると、朝食の時間になるまで塀を乗り越えて、私は隣のゴルフの名門コース
『武蔵カントリークラブ』の無人のコースで隠れてドライバーショットの練習をしていた。

 この研修で、私達は、公務員魂や気概を鍛えられたわけだが、私の場合を見てもこの研修を通じて交流関係も広がり、爾後の仕事をする上でのベースになっているように思う。
 
 
 昨今、最近の公務員には、
気概(困難にもくじけず理想的な国家をつくろうと意気込むやる気と情熱)がなくなっていると、新聞紙上などで有識者に指摘されているようだが、もしこれが本当だとすれば忌々しき事態である。
 このように批判されるのは、
公務員自身にも大いに責任があるわけだが、過度の公務員たたきをした一部の政治家やマスコミにも一端の責任があると私は思う。
 
財政の破綻と老齢化や少子化によって、いつ『国家破産』が起きても不思議ではないと叫ばれている今日、考えられる対策は、増税やハイパーインフレ、徳政令(国の債務をチャラにする対策)だけではないだろう。
 その対策を樹立するのが日本の高級官僚の諸君の責務であり、彼らの一日も早い自信の回復と気概の高揚が必要である。
 それがなくては、私は、国家の安泰と発展はないと老婆心ながら危惧しているが、いかがだろうか。
[PART1]完

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